認知症と咀嚼

先日、歯科の受付で順番待ちをする中で、ある冊子をめくっていると、面白い実験結果を報告する記事をみかけました。噛む力と認知症の関連が、書かれていたのですが、噛むことが認知症の予防につながると言うのです。認知症とは、高齢者に多くみられ、物事を考えたり、物事を判断したり、臨機応変に物事に対応し、人と人とのコミュニケーションを計る、人間が日常生活を送る上で、必要不可欠な能力であります。

認知症は、人間が年を取ることで、その認知機能がスムーズに働かなくなることからおこることだと言われています。認知機能が働きにくくなるということは、脳の神経細胞が減少し、脳神経に老廃物が溜まり、脳の代謝機能が弱まり、またそれらを活性化させる酵素が減ることなどで、認知をする機能が衰えることを言うそうです。昨今、問題となっている、高齢者の自動車運転による、高速道路の逆送、アクセルとブレーキの混同による事故、通常は、自動車が乗り入れない踏切内での走行などは、認知症からくる、認知機能の衰えが原因であると考えられています。

人間は年を取るもので、衰えも仕方がありませんが、「噛む」ことで、その認知機能が回復をみせるのであれば、とても興味深いレポートだと思いませんか?脳にある海馬、扁桃体、前頭前野などの領域への活性化、刺激が、認知機能への回復に役立つ報告されていました。ガムを噛むことで、刺激を受けた脳は、様々な感情や情緒を生み出し、その感情が、新たな会話をも生み出し、人と人とのコミュニケーション、さらには、そこに新たな神経ネットワークと人間的なネットワークが結ばれていくのだそうです。ガムを噛むことは、認知症予防になりそうです。

そこで、考えられるのが、食卓を家族や友人と楽しむということです。美味しそうな夕飯を前に、皆で、食卓を囲み、美味しいものを良く噛んで食べる。その時に感じる「おいしい」「楽しい」感情は、脳の認知機能を司る領域を刺激し、認知機能を活性化させ、美味しくバランスのとれた食事から摂取した栄養は、記憶にも身体にも御馳走になりそうです。愛情のこもった美味しい食事を、一品一品大事に噛みながら、皆で食卓を囲むことの大事さを、認知症のメカニズムから学んだ気がしました。歯科の受付に置いてあった、その冊子を手に取った人々は、診察を前に思わず歯の大切さを感じ、その場で改めて今ある歯を噛みしめるのではなかと微笑んでしまいました。

訪問歯科診療

歯科に通院できない人々の自宅や、老人ホームなどの住居施設に、ドクターや看護士が訪問して、診察を行なうことを、訪問歯科診療と言います。緊急時や、突発的な傷病に対して、診療を行なう場合は歯科の往診と呼ばれていますが、「訪問歯科診療」とは、ドクターや看護士が、定期的に自宅や施設を訪問し、治療計画や、治療方針を決定し、診療を行なうことを言います。ついこの間までは、療養の必要な老人、高齢者と言えば、病院に入院しているイメージがありましたが、介護保険制度の導入、医療制度の問題などから、病院への入院が制約されてきているため、自宅、老人ホーム、グループホームなどで、在宅医療を受ける高齢者の数は、年々、増加しています。また、そのような在宅医療が、今後、私たちの社会を支える上で、重大な役割を見こまれることは、超高齢化社会を目の前に、明確なことであると常々、言われてきましたが、皆さんの意識の中で、そのような在宅医療がどの程度、必要不可欠な医療として認知、認識されているでしょうか?国としても、「在宅療養支援診療所」、「在宅療養支援病院」の普及を目指しているとされています。

●在宅療養支援診療所・・・24時間体制で在宅医療に対応する医療機関

●在宅療養支援病院・・・24時間体制で在宅医療に対応する病院 在宅医療の普及の中でも、「訪問歯科診療」の役割は、在宅医療を必要とする人びとの需要の中でも、大きいのではないかと考えます。寝たきりの看護を受ける人々にとって、毎日の食事を楽しむという喜びは、健常者以上にあるかもしれません。超高齢化社会と言われている、2025年を前に、在宅医療システムについて考えてみました。歯医者さんに、治療に行きたくも簡単には行けない高齢者、入れ歯のメンテナンスをしたくとも歩行が困難な年配者たちが、在宅で歯科医療を受けられることは、理想社会としての夢語りではなく、現実化させていかなくてはならないミッションなのではないかと考えます。